ネガティブ思考を科学的に活かす方法「プレモータム・シンキング」で失敗を未然に防ぐ

ネガティブ思考を科学的に活かす方法「プレモータム・シンキング」で失敗を未然に防ぐ

こんにちは。坂口友亮です。

今回は「ネガティブ思考を治したい」「ネガティブ思考をポジティブ思考に変えたい」と思っている人に朗報です。

ネガティブ思考を活かす、科学的な方法を紹介します。

「ネガティブ思考の人は慎重だからいい!」みたいな気休めではありません。

「プレモータム・シンキング」をご存知でしょうか?

「科学的な適職」「先にしくじる」で紹介されている手法で、

「失敗を前提にして意思決定する」

というシンプルな考え方です。

数々の研究で効果が認められていて、プレモータムを行うと未来の予測精度が30%上がるとされています。

今回は

「あるアスリートが、引退してフレンチの店長にならないか?と先輩に誘われているケース

を例に、プレモータム・シンキングの具体的なやり方を紹介します。

設定は以下の通り。

  • 現在25歳。5年後には引退しようと考えている
  • 今のチームでいまいち実績を残せていない。自分の能力にも原因があるが、監督がイマイチ自分を活かしきれていない気がする。移籍も考えている
  • そんな時、久しぶりに会った高校時代の先輩から「俺が経営してるフレンチの店長やらない?」と誘われた
  • 元々「フレンチのシェフになりたい」と思っていた時期もあった
  • 先輩の店が軌道に乗り、楽しそうに仕事をしているのはSNSで知っていた
  • 「この先、現役を続けても活躍できるかわからないし、フレンチのシェフなら楽しく、長く続けられるんじゃないか」という思いが頭をよぎる
  • 先輩が悪い人ではないことは分かっている
  • 先輩からは「半年後に今の店長が独立して辞めることが決まっててさ、お前なら安心してまかせられるわ」と言われた
  • 半年後なら、ちょうど今野チームと契約が切れるタイミングだし…この誘いを受けるべきか?と悩んでいる

ぜひ「もし自分がこの状況だったらどうするか?」と考えながら読んでみてください。

プレモータムをおこなう4つのステップ

①「完全な失敗」をイメージする

今から3年後、自分の仕事が「完全な失敗」に終わっている状況をイメージします

「完全な失敗」の内容は、自分の主観で決めてOKです。

「こうなることだけは避けたい」と思う、最悪の未来を10分ほどかけて書き出します。


②失敗の原因を考える

次に「完全な失敗はなぜ起きてしまったのか?」を考えます。

自分の性格や、周りの環境を考慮して考えてみてください。

もし思いつかない場合は、以下のチェックリストを参考にしてみてください。

※チェックリストは「科学的な適職」の内容を元に、今回のケースに当てはまるように一部変更しています。

  • もし自分が選んだ仕事が間違っていたとしたら?
  • 先輩の店と、自分の相性が良いと考えられるエビデンス(根拠)はなんだろうか?
  • 先輩の店が将来有望だと考えられるエビデンス(根拠)はなんだろうか?
  • 見栄えがいい肩書き(店長)や職種(フレンチのシェフ)だけにひかれて仕事を選んでいないだろうか?
  • いまの監督がチームからいなくなったら、判断は変わるだろうか?
  • いまのチームで活躍できるようになったら、転職の判断は変わるだろうか?
  • 自分が前のチームでうまくやっていたのは、どれくらいチームメイトや先輩の協力、チームの肩書きなどのおかげだろうか?
  • 給料が今と変わらなくても、先輩の店に移るだろうか?
  • 先輩の店に移ることで、今までつちかった人間関係やコネに影響は出ないだろうか?
  • 現状に満足がいかないのは状況や環境のせいでなく、自分自身に非がある可能性はないだろうか?
  • いま思い描いている仕事選びのスケジュールが、十分だと考えられる理由はなんだろうか?


③失敗のプロセスを考える

失敗の原因を思いついたら、そのプロセスを時系列でイメージします。

出来るだけリアルに失敗のプロセスをイメージするのがコツです。


④失敗を避けるための対策を考える

失敗の原因とプロセスをイメージできたら、それを避けるための対策を考えます。

プレモータムを実践する(具体例)

①3年後の「完全な失敗」をイメージする

今から3年前、引退して先輩の経営するフレンチに就職した。

最初は新しいチャレンジにワクワクしたが、料理の腕は一向に上がらない。

店に元々いたスタッフからも「なんだよアイツ、オーナー(先輩)の知り合いだからっていきなり店長になりやがって」と思われているようだ。

先輩も、最初は「経験していくうちに上達していくし、大丈夫!」と言っていたが、3年経っても全く成長しない様子を見て

「すまん、俺が悪かった。ここまでできないとは…他のスタッフからの不満もあるし、店を辞めてくれないか」

と言われてしまった。

3年前に所属していたチームでは監督が変わり、当時全く活躍していなかった選手がバリバリ活躍しているようだ。

あの時あきらめずに3年間がんばっていれば…と思うが、今さら戻ることもできない。


②失敗の原因を考える

・全く料理の腕が上がらず、店長の役割も果たせなかった

・店に元々いたスタッフと上手くいかなかった

・先輩からも見放されてしまった

・元いたチームに戻れない


③失敗のプロセスを考える

・全く料理の腕が上がらず、店長の役割も果たせなかった

→「店長」や「フレンチのシェフ」と言う肩書きにひかれて始めたものの、店長としてマネジメントすることに興味が持てず、そもそも食べるのは好きでも料理を作るのはそこまで好きではない、と気づいてしまった

・店に元々いたスタッフと上手くいかなかった

→先輩と知り合いということで、偉そうにしてしまった。アドバイスを受けても、素直に聞き入れることができなかった。

・先輩からも見放されてしまった

→結果を出そうと焦りすぎ、上手くいかないことを素直に先輩に相談できなかった。先輩からも色々アドバイスをもらっていたものの、見栄をはってしまい素直に聞くことができなかった。

・元いたチームに戻れない

→契約が切れた時に「俺はこれからフレンチのシェフになる」と公言してしまい「もう少し現役を続けないのか?」という周りのアドバイス一切聞き入れなかった。


④失敗を避けるための対策を考える

・全く料理の腕が上がらず、店長の役割も果たせなかった

→まずは試合や練習のない週末だけでも先輩の店に行って、どんな仕事をしているのか体験させてもらう。

店長としてどんな役割を期待されているのか、どんな能力が必要なのか事前に聞いたり、調べたりしておく。

・店に元々いたスタッフと上手くいかなかった

→休みの日は先輩の店に顔を出し、元々いるスタッフに顔を覚えてもらう。

チャンスがあればスタッフと食事や飲み会に行き、コミュニケーションをはかる。

・先輩からも見放されてしまった

→思えば、自分は周りの期待に応えようとして、失敗している自分を隠すクセがある。今からでも、出来ないことは周りを頼ったり、相談するようにしてみよう。

・元いたチームに戻ることもできない

→現役を続けながら、同時にフレンチの技術や店長としてのマネジメント能力を身につける方法はないか?と模索する。


具体例はこんな感じです。暗い気持ちになったでしょうか。

この暗い気持ちになることに意味があります。

転職やセカンドキャリアを考える時は気持ちが熱くなり前のめりに考えてしまいますが、プレモータムを行うと「あれ、この選択は本当に正しいのかな?」と一度冷静になります。

もちろん、ただネガティブな未来を予想するだけでは行動が伴わないので、ステップ④で目標の実現のために現実的な対策を考えることが重要です。

未来の予測精度を上げるために必要なのは「思考の幅」を広げること

世間ではポジティブが良いことのように言われていますが、リスクを無視した行動はただの視野狭窄です。

ネガティブとポジティブどちらがいい、というわけではありません。

必要なのは「思考の幅」を広げることです。

一つだけ注意があります。寝る前には絶対やらないでください。

ネガティブになりすぎて「やっぱりヤメておこう」と行動にブレーキがかかり、自己肯定感まで下がる危険性があります。

意思決定の精度が高めて、自分の望む未来に近づくために、ぜひ「プレモータム・シンキング」を試してみてください。