「せっかくここまで続けてきたのに」と思った時に、読んでほしい話

「せっかくここまで続けてきたのに」と思った時に、読んでほしい話

こんにちは。坂口友亮です。

引退を考えている時に「せっかくここまで続けてきたのに、もったいない」と言われて、迷ってしまった。

引退後、以前から興味があった別のことにチャレンジしたいが「今までやってきたことを使わないともったいないかな」とためらってしまった。

その気持ち、とてもわかります。

人は誰でも、今までかけてきたコストを無駄にしたくないと本能的に思うものだからです。

行動経済学では「サンクコストバイアス」と呼ばれ、誰もがハマりやすい思考なのです。

(※バイアス…誰もが陥りやすい先入観・思い込み・かたよった思考のこと)

過去の栄光を忘れられずに引退のタイミングを見失ったり、本当に歩みたいセカンドキャリアを歩めない…なんてことにならないために。

原因と対策を紹介します。

今やめれば負ける。やめなければ、もっと負ける。

例えば、UFOキャッチャーで欲しいぬいぐるみがあったとします。

最初は軽い気持ちで始めたが、1000円投入してもぬいぐるみが取れなかった。

ここで「すでに1000円も使ったんだから、取れるまでやらないと今までの1000円が無駄になる」と思って、さらに1000円投入してしまうのが、サンクコストバイアスがバリバリに働いている状態です。

こうなるのを避けるために、一度冷静になって「追加で投入する1000円で、何ができるか?」を考えてみます。

1000円あれば、好きなラーメンが食べられる。

読みたかった本も買える。

欲しかったウェアも、1000円あればワンランク上のやつが買えるかもしれない。

UFOキャッチャーと人生の選択では規模が全然違うわ!と思うかもしれませんが、本質的には同じです。

サンクコストバイアスがやっかいなのは、それまでに投入した時間や金銭的なコストが大きければ大きいほど「負けを取り返したい」「損したくない」という気持ちが強く働いてしまうところです。

人生をかけて一つの競技に取り組んできた。

この資格を取るのに何百万円もかかった。

そう思えば思うほど「これから先も続けなければ」と考えてしまいます。

しかし、これから先に使う時間やお金を、別のことに投資すれば、全く別のチャンスが生まれる可能性があります。

「このまま続けても先がない」と気づいてしまった時点で、今までどれだけの時間とお金を投資してきたとしても、やめるべきです。

「もったいないから」という理由だけで続けてしまうと、未来の貴重なチャンスまで失い続けることになります。

達成不可能な目標をあきらめると、健康になる

シカゴ大学教授のスティーブン・レヴィットは著書「ゼロベース思考」の中で

達成不可能な目標をあきらめた人たちは、身体的、精神的に健康になる

という研究を紹介しています。


これはコンコーディア大学の心理学教授カーステン・ロッシュが行った研究で、

達成不可能な目標をあきらめた人は「うつやネガティブな感情が少ない」「コチルゾール値が低く、免疫機能が高い」

という結果が出ています。

とは言うものの、これを聞いて「じゃあ、あきらめよう!」と決断できる人は多くないでしょう。

スティーブン・レヴィットも「興味深いけど、何かをやめる決断を下せるほど圧倒的な証拠とは言えない」と述べています。

そこで、彼は「人生の大きな決断をコイン投げで決める」という前代未聞の実験を行いました。

どんな決断をしても、コイン投げで決めるのと変わらない

実験の内容は次の通りです。

  • ホームページに「あなたの決断をコイン投げで決める、経済学の実験に協力してくれませんか?」と募集する
  • その人たちの決断を「表が出れば、やめる」「裏が出れば、現状維持」とコイン投げで決める
  • その後幸せになったかどうか?を3ヶ月後、6ヶ月後と継続して調べる

この実験には

  • いまの仕事をやめるべき?
  • 宗教を改宗すべき?
  • ミュージシャンになる夢を捨てるべき?
  • 才能ある娘がピアノをやめるのを許すべき?

など、様々な悩みが4万以上も寄せられました。

人生にかかわる重要な決断をコイン投げにまかせる人が4万人以上もいることに驚きますが、それほど何かを決断するというのは難しく、世界共通の問題なのでしょう。

実験の結果は「とりあえずの結論を引き出せるだけのデータはすでに得られた」とした上で、

「やめるとみじめになることを示すようなデータは得られなかった」

と結論づけています。

コインの表と裏が出る確率は50%ずつ。

つまり「やめる」「現状維持」どちらを選んでも、その後幸せになれる可能性は変わらない、ということです。

正直、むちゃくちゃな実験だと思います。

情報やデータを集めて判断した方がいいのでは?

人生の重大な決断なら、もっとよく考えるべきでは?

そう思うかもしれません。

ですが、

今やっていることを続けて目標を達成できる可能性が50%をはるかに下回るなら、やめた方が幸せになれる可能性が高い

とも言えます。

この結果を受け入れるのは、感情的にかなり抵抗があります。

さすがにコイン投げで人生を決めるのは怖すぎます。

もう少し、データに基づいて、決断の成功率を上げる方法はないのでしょうか?

データ分析よりも「思い込みを取り除く」方が6倍も重要

そのためのヒントを与えてくれる本が「科学的な適職」です。


正しい意思決定を行うためには、綿密なデータ分析よりも脳のバグを取り除くプロトコルのほうが600%も重要である

「科学的な適職」

「科学的な適職」の著者、鈴木裕さんはバイアスのことを「脳のバグ」と呼び、正しく意思決定を行うには思い込みを取り除く具体的な手順をふむことが重要と述べています。

「もったいない」「損を取り返したい」という感情の問題は、理屈をはるかに凌駕するほど強力です。

「科学的な適職」では、バイアスを取り除く4つの具体的な手順(プロトコル)が紹介されていますが、今回はすぐに取り組める「10/10/10テスト」を紹介します。

10分後・10ヶ月後・10年後の未来をイメージする

10/10/10テスト

①この選択をしたら、10分後はどう感じるだろう?
②この選択をしたら、10ヶ月後はどう感じるだろう?
③この選択をしたら、10年後にはどう感じるだろう?

「科学的な適職」

これは「未来のことを考えると、判断力が上がる」という現象を利用した方法です。

例えば、あなたが「引退すべきか?」と悩んでいるとしたら、

10分後→引退したことでホッとしているだろうな。でも同時に「もっと続けていれば」とも思うだろうな

10ヶ月後→引退したことで時間もできたし、新しいことにチャレンジしているだろうな。10ヶ月あれば、何冊の本が読めるだろうか?何人の人に会えるだろうか?

10年後→少なくとも、10年後までは現役を続けるのは無理だったし、10年前のあの時に引退を決断したのは間違っていなかったかな

このように使います。

もちろん「10/10/10テスト」を行うことで「やはり今は引退すべきではない」という答えがでるかもしれません。

そうなれば、引退せずに現役を続行するべきだと思います。

その方が「引退すべきか」と悩みながら現役を続けるよりも、納得・集中して練習に取り組むことができます。

正解はない。しかし正解に近づくことはできる

何かを決断する時に、正解はありません。

ある意味、現状維持の方が楽ですし、今までやってきたことをやめて新しいことにチャレンジするのはめちゃくちゃ勇気がいります。

僕が正解がない決断を迫られた時に、大事にしていることがあります。

それは「後悔を残さないこと」です。

そのために必要なのは、思い込みを乗り越えるための具体的なテクニックと、それを行動にうつすためのほんの少しの勇気だと、僕は思います。